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ヴォクソール 女性料理人の人形 (1760‐64年頃)
A Vauxhall Figure of Female Cook C.1760-64



 

 

 ヴォクソールの女性料理人のフィギュア。帽子とマントを身に着けた女性が、岩に腰掛け、左手に料理用ポット(?)を持っている。本来は男性料理人(同様に岩に腰かけ、ポットとスプーンを持っている。)とペアをなしている。(このペアは従来から料理人と呼ばれているが、本当にそうなのか個人的には確信が持てない。料理用の器具を持っているのがその根拠なのだろうが、少なくとも女性像の方は持っているのが本当に料理用器具なのか分からないし、マントをまとって岩に腰かけているという姿も、料理人とはあまり結びつかないように思う。)

 このフィギュアも、従来ロントンホール作品とされてきたものが、ヴォクソール作品として再分類されたものである(ヴォクソール(V1)を参照)。しかし、本品と基本的に同じ形でありながら楽器(女性はリュート、男性は縦笛)を持つ音楽家に改変されたフィギュアが硬質磁器のプリマス(及びその後のブリストル)作品として知られており、プリマスとの間で経営者同士の交流やモデラー等の職人の移籍があった事実が確認されているヴォクソールで、本品(を含む一連のフィギュア)が製造されたと、現在では考えられている。(話はそれるが、プリマスで音楽家フィギュアに改変されたのは、もしかしたら料理人という設定が本品にはそぐわないと考えられたからなのかもしれない。)

 本品は、ヴォクソール作品の中では後期(1760-64年頃)のものだと分類されている。濃い染付の青がスカートと帽子に用いられているのが印象深いが、これはヴォクソール後期作品の特徴の一つで、1759年のスコットランドでのコバルト顔料の発見にヴォクソール経営者のニコラス・クリスプが関わっていたことに関連すると見られている。また、本品では衣服の装飾に金彩が用いられているが、ヴォクソールのフィギュアでは中期(1755-60年頃)までは金彩はほとんど使用されなかったとされる。

 造形面での特徴としては、岩に貼付された巨大な花と葉がある(大きすぎて不気味なほど。また脱線だが、"Little Shop of Horrors"のオードリーを思い浮かべてしまう)。加えて、裏面が開口していることも大きな特徴である。ヴォクソールのフィギュアの裏面は一様でなく、平らなものもあれば、ヴォクソール(V1)のようにラフなものもある。(この統一感のなさには若干疑問が残る。)

 さらに、後期ヴォクソール作品の特徴の一つとして、1760年にソープロック使用権が切れたことによる素地の変化もあげられる。中期のなめらかな素地に比べて、後期は素地が粗いとされる。後期作品には骨灰が用いられるようになったとの分析もある。本品は全体に釉薬がかけられているため、素地の状態を確認できるのは裏面やその内側の一部しかなく、はっきりとは分からないが、若干乾燥してざらついた感じの素地のようには見える。

 その釉薬については、かなり青みがかっているのが特徴である。写真でも背面や台座部分が青っぽく見えるのは釉薬の色である。裏面内側には釉薬がかかっている部分とかかっていない部分があるので、違いがよく分かると思う。


高さ(Height): 14.5cm
マーク: なし
Mark: None
参照文献/References
-Brian Adams "True Porcelain Pioneers The Cookworthy Chimera 1670-1782" (2016) pp.158-159 (Vauxhall cooks), pp.180-183 (Bovey Tracey musicians) and pp.200-201 & 204 (Plymouth musicians)
-Roger Massey "Vauxhall Porcelain Figiures" English Ceramic Circle (ECC) Transactions Volume 25 (2014) Apendix C.5 & C.6, figs.1 & 40
-ECC Exhibition Catalogue"Ceramics of Vauxhall 18th Century Pottery and Porcelain" (2007) p.92 and cat.173 (Vauxhall male cook) & cat.174 (Plymouth male musician)
-Simon Spero "Vauxhall Porcelain - A Tentative Chronology" ECC Transactions Volume 18 Part 2 (2003)
-Roger Massey "A Tale of Two Cities: Some English Hard Paste Rococo Figures" and "Vauxhall and Plymouth Figures A Connection: Thomas Hammersley" ECC Transactions Volume 16 Part 1 (1996)
-Bernard Watney "Longton Hall Porcelain" Plate 57B & C and p.38 (as Longton Hall)
-Peter Bradshaw "18th Century English Porcelain Figures 1745-1795" p233 and p309 (O60) (as Longton Hall)

-George Savage "Eighteenth Century English Porcelain" Plate 83(a) (as Longton Hall)
-V&A Museum Website:
 (Vauxhall cooks)
 http://collections.vam.ac.uk/item/O335550/figure-vauxhall-porcelain-factory/

 http://collections.vam.ac.uk/item/O335549/figure-vauxhall-porcelain-factory/#
 (Plymouth/Bristol musicians)
 http://collections.vam.ac.uk/item/O186036/figure-plymouth-porcelain-factory/
 http://collections.vam.ac.uk/item/O186028/figure-plymouth-porcelain-factory/
 http://collections.vam.ac.uk/item/O336570/figure-plymouth-porcelain-factory/
 http://collections.vam.ac.uk/item/O186279/figure-plymouth-porcelain-factory/

-Museum of Fine Arts Boston Website:
 (Vauxhall cooks)
 https://collections.mfa.org/objects/53411/female-cook?ctx=1b36c08f-8e3e-4201-9d74-c83a7e101403&idx=11
 https://collections.mfa.org/objects/53410/male-cook?ctx=1b36c08f-8e3e-4201-9d74-c83a7e101403&idx=10



(2020年9月掲載)